#3 子どもの素朴概念を科学化・相対化する社会科授業ー小学校第6学年の単元「武士とは何か」の開発と分析を手がかりにー

教授学習観

認知心理学の知見を社会科授業に取り入れ、単元の開発と分析を行っている市位和生氏の論文を紹介。

この論文を紹介する理由

構成主義的なアプローチに基づく学習理論を考える上で「素朴概念」は重要なキーワードになると考えているからである。

構成主義は、学習者を知識のない受け身の存在として見なすのではなく、新しい知識を主体的に構築していく存在と見なされる。

つまり、学習者を知識のない受け身の存在として見なすのであれば、教師はいかに効率的に知識を伝達できるかを重視する。

一方、学習者を、知識を構築していく主体の存在として見なすのであれば、教師はいかに間違った認識(素朴概念)を科学的な認識へと導いていけるかを重視する。

暗記教科や知識詰め込みのような課題を克服するためには、後者のような学習観をもつ必要があるのではないかと考える。

そのような学習観を授業として具体化する際に参考になると考え、紹介する。

この論文を読むことで分かること

  • 素朴概念を科学化するための方法
  • 素朴概念を科学化するための授業構成

論文の要約

研究の背景

これまでの社会科教育における研究では、学習者を対象化して、どのような知識や概念または技能・能力を授業で身につけさせることができるのかに関する追究が主としてなされてきた。

そのため、子どもが社会科の授業以外で体験し、概念化してきた事柄(素朴概念)は、とりたてて重視されてこなかった。

研究の目的

  • 認知心理学、教育心理学を手がかりにして、子どもの素朴概念を授業によって科学的概念に変容させ、さらに、その概念を相対化させるにはどのような方法があるのかについて考察すること。
  • 子どもの素朴概念を科学的概念へと変容させるための「学習指導過程モデル」を構築すること。
  • 「学習指導過程モデル」を踏まえた小学校第6学年の単元「武士とは何か」を構成すること。

研究の方法

  1. 科学的概念獲得に関する先行研究の整理
  2. 「学習指導過程モデル」の構築
  3. 「学習指導過程モデル」に基づく単元の開発
  4. 実施した授業の効果検証

研究の有効性

意図的な認知的葛藤状態を作り出すことが有効である。

ルール(法則)の方向に注目した展開を行うことが有効である。

メタ認知的活動を活用した展開を行うことが有効である。

今後の課題

  • 概念の相対化を行った児童が2名しかいなかったことから、どのような授業方略が必要か探究すること。
  • 第1、第2、第3局面にとどまった児童を第4局面に移行できるように学習方略の改良を進めること。

自分の考え

子どもの素朴概念を考慮する以上、「個別性」にどう対処していくのか考える必要があると考える。

素朴概念は、社会科の授業以外に、日々の生活経験によって構築されるのもであり、一人ひとりによって違いがあるからである。

素朴概念が異なれば、認知的葛藤を引き起こす場面も異なってくる。

また、最終的に獲得する科学的概念にもばらつきが生まれると考える。

このような、一人ひとりの学習の「スタート」と「ゴール」の多様性に対してどうアプローチしていくかが重要な課題になってくるのではないか。

こうした課題に関しては、中教審答申の「個別最適な学びと協働的な学び」の考え方がヒントになると考えている。

学習の個別性を重視しつつ、学習が孤立化しないように協働的な学びを支援する。

そのような学びによって、素朴概念の個別性を活かしつつ、協働的な学びにより、科学的概念への変容を保障することができるのではないかと考える。

ちなみに、以下の文献は、「個別最適な学びと協働的な学び」を実際の学校でどのように実現することができるのかについて書かれおり、とても参考になった。

奈須正裕 (2021) 『個別最適な学びと協働的な学び』東洋館出版社

論文情報

【タイトル】子どもの素朴概念を科学化・相対化する社会科授業ー小学校第6学年の単元「武士とは何か」の開発と分析を手がかりにー

【著者名】市位和生

【雑誌名】全国社会科教育学会 , 『社会科研究』, 第66号

【出版年】2007年

【こんなときにオススメ】認知心理学の知見を生かした授業づくりについて知りたいとき

【タグ】小学校社会科 , 認知心理学

参考文献

市位和生 (2007) 子どもの素朴概念を科学化・相対化する社会科授業ー小学校第6学年の単元「武士とは何か」の開発と分析を手がかりにー , 『社会科研究』, 第66号 , pp.31-40

子どもの素朴概念を科学化・相対化する社会科授業 : 小学校第6学年の単元「武士とは何か」の開発と分析を手がかりに | CiNii Research

 

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