素朴概念の転換を取り入れることによって、価値観の変容を促し、自身の価値判断を批判的に吟味させるための学習方略を明らかにしようとした河野晋也氏の論文を紹介。
この論文を紹介する理由
どのような価値判断を行ったかという結果だけではなく、変容に至る過程でどのように自身の価値観や価値判断を吟味したかという点が重要であり、その吟味をさせるための学習方略について考える上で参考になるからである。
この論文を読むことで分かること
- 素朴概念を重視する授業デザインについて
- 価値観変容を目指す授業デザインについて
論文の要約
ESDは、価値観と行動の変容を目指す教育であるとされる。
価値観の変容とは、既有の価値観を持続可能な社会を形成する価値観へと転換するため、新たな価値認識を獲得、再構築することである。
ESDにおいて価値観や行動を変容させるためには、学習者が自身の価値観や価値判断を批判的に吟味する必要がある。
その理由として以下の2点が挙げられている。
- ESDには多様な価値判断が認められるからである。
- 変容した価値観や新たな価値判断が、学習後も維持され、その後のライフスタイルや考え方に影響されることが求められるからである。
以上のように、ESDにおいては、どのような価値判断を行ったかという結果だけではなく、変容に至る過程でどのように自身の価値観や価値判断を吟味したかという点が重要である。
ESDにおける価値観変容、価値認識の変容を促し、自身の価値判断を批判的に吟味させるための学習方略を明らかにすること。
①従前の社会科学習論の分析
②具体的な手立ての検討
③単元「鹿と共に生きる奈良の町」の開発
変容を促す具体的な学習方法として、以下の2つの方略が示された。
①素朴概念の明確化
②認知的葛藤による吟味
今後の課題として「学習者の思考プロセスの分析」が挙げられている。
具体的には、以下の2点である。
①構築していた知識をどのように解体するのか
②どのように再構築していくのか
自分の考え
社会の順応者ではなく、社会の形成者を育成する上で、非常に参考になる論文であると思った。
本論文で言えば、「鹿を守るべき」という考えは唯一の解ではない。
より良い価値観を形成していくためには、どのような価値観を形成させるかという結果に注目するのではなく、学習者がそれまでに持っている自身の価値観を批判的に吟味して、素朴概念を乗り越えていくことであると考える。
社会科の授業において、絶対解を教授するだけではなく、多様な解の可能性を検討させることで、学習者の価値観を変容させていくことができるのではないか。
また、本論文の課題でも述べられていたが、価値観を変容させるプロセスが明らかになることで、より学習効果が高まっていくと考える。
そのため、今後は、認知心理学等を手がかりに、素朴概念や知識の構築について検討していきたい。
論文情報
【タイトル】持続可能な社会の担い手としての価値観変容をめざす社会科学習ー素朴概念の転換を取り入れた学習方略ー
【著者】河野晋也
【雑誌名】広島大学大学院人間社会科学研究科紀要 , 『教育学研究』, 第2号
【出版年】2021年
【こんなときにオススメ】認知心理学の知見を生かした授業づくりについて知りたいとき
参考文献
河野晋也(2021):持続可能な社会の担い手としての価値観変容をめざす社会科学習ー素朴概念の転換を取り入れた学習方略ー , 広島大学大学院人間社会科学研究科紀要 , 『教育学研究』, 第2号 , pp.375-384
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