経済理解における素朴理論の科学性と非科学性を理論的・実証的に明らかにすることを目的とした呂光暁氏の論文を紹介。
この論文を紹介する理由
近年の認知心理学の研究成果によって、人が知識を獲得するプロセスが明らかにされつつある。
その一つとして「素朴理論」の存在がある。
人は、知識を全くもたない白紙の存在ではないし、学ぶということは、空っぽの容器に知識を詰め込むことではない。
人は、様々な経験の中で物事や事象及びそれらの関係性に関する知識体系を構築していくとされる。
子どもの論理に沿った授業を行う上で、「素朴理論」に関する特徴を理解することは重要であると考えられ、本論文は参考になるからである。
この論文を読むことで分かること
- 経済理解における素朴理論の特徴
論文の要約
【問題の所在①】
教育方法論的な探究がなされたにもかかわらず、そもそも素朴理論が科学的理論と構造的にどう異なるのか、そしてどうしたら素朴理論を科学的理論へ転換できるのかという根本的な探究がなされていない。
【問題の所在②】
素朴理論に関する研究は、実践研究によるデータの蓄積に始まり、その後、子どもの素朴理論の具体的な内容、素朴理論が理論として成立する合理性、そして素朴理論と科学的理論の相互関係の究明へと発展してきたが、素朴理論内部の科学性と非科学性に関する理論的かつ実証的検討は見られなかった。
【問題に対する筆者の考え】
こうした根本的な検討なしに、教育的働きかけによる素朴理論の転換を企図しても、それはケースバイケースとなり、その教育的働きかけに妥当性と有効性を求めることが難しくなると考える。
経済理解における素朴理論の科学性と非科学性を理論的・実証的に明らかにすること
- 科学性と非科学性の相互関連性の理論的検討
- 科学性と非科学性の相互関連性の実証的検討
- 素朴理論を科学的理論に転換する可能性の検討
素朴理論の内部構造に変化をもたらす要因として以下の2点が示された。
- 学習者がもつ生活経験
- 生活経験自体を自覚する意識
今後は、素朴理論の構造的特徴を踏まえて、実際の学習活動を通してそれを科学的理論まで転換させる実践研究を進めていきたい
自分の考え
今後、学校教育で実践していく上で検討すべきこととして以下の2点が挙げられる。
①一人ひとりの素朴理論にいかに対応するか
②各教科の特質を踏まえて、いかに実践するか
1点目に関しては、教師が一人ひとりの素朴理論をいかにして見取り、それを科学的理論へと転換させていくかという”個別性”の問題である。
これまで通り、一人ひとりを白紙の存在として捉え、同じ問題を同じ方法で解くことを求めるならば、手間はかからない。
しかし、認知心理学の知見を踏まえると、子どもの論理を軽視することになってしまう。
学校教育の限界性も視野に入れつつ、改善策を考えていきたい。
2点目に関しては、教科書や学習指導要領といった”学習内容との関連性”の問題である。
素朴理論を科学的理論へと転換させることを学びと捉えるならば、数学や理科、社会科などの具体的な教科の中でどう実践していくか、
教科の特質に応じた「素朴理論」や「科学的理論」をいかに定義するか、
といった問題があると考えられる。
子どもの実態を丁寧に見取りつつ、具体性の高い情報を蓄積していくことが重要である。
論文情報
【タイトル】経済理解における素朴理論の科学性と非科学性に関する理論的・実証的研究
【著者】呂光暁
【雑誌名】『学校教育学研究紀要』, 第7号 , pp.83-103
【出版年】2014年
【こんなときにオススメ】用語の定義について知りたいとき
【タグ】認知心理学、素朴理論
参考文献
呂光暁(2014):経済理解における素朴理論の科学性と非科学性に関する理論的・実証的研究 , 『学校教育学研究紀要』, 第7号 , pp.83-103
コメント