全ての学習者への安定的な知識構築プロセスを保証する授業について「認知内容分析」と「社会ネットワーク分析」を用いて考察することを目的とした遠藤育男氏、益川弘如氏、大島純氏、大島律子氏の論文を紹介。
この論文を紹介する理由
- 学習科学に基づく授業実践を行う上で参考になるため
- 学習科学に基づく授業実践の効果を検証する上で参考になるため
この論文を読むことで分かること
- 学習科学に基づく授業実践
- 学習科学に基づく授業実践の効果を検証する方法
論文の要約
現行の学習指導要領では、言語活動の充実を掲げ、算数科でも「言葉や数、式、図、表、グラフ等の相互の関連を理解し、それらを適切に用いて問題を解決」と、多様な視点で解き方について議論することが安定して保持される深い理解につながるとしている。
しかし、通常学級クラスの規模で、授業に参加した学習者全員のプロセスを追い、多様な視点で話し合う話し合い活動によってどのような知識構築プロセスを引き起こしたかを検証した事例は多くない。
ジグソー学習法を基にした2回の話し合い活動で学習目標に沿った知識構築プロセスを引き起こすことができたかを検証すること
- ジグソー法を基にした授業実践
- 認知内容分析
- 社会ネットワーク分析
- 回顧記述調査結果分析
【認知内容分析】
ある表象を式表象と結び付けて話し合うことが重要だったことが見えてきた。
【社会ネットワーク分析】
「解」についてではなく「解法」と「方略」を中心に話し合うことや「重なり」に対応する方略「同じ」「消去」「カウント」のトライアングルのネットワーク形成がでてくることが重要であることがわかった。
【明らかになった重要なポイント】
授業者が話し合いに入って正解を同定してしまうような介入や、授業者が特定の方略を価値づけてしまう介入では、抽象度も上がらず、学びを止めてしまう可能性が高いことが分かった。
【研究成果に基づく仮説】
当初仮説として提示していた点についてある程度支持されたものの、授業者の正解を同定する介入や、特定の方略を価値づける介入が、多様な視点で考えていく自律的な学習活動の阻害要因になる可能性が見えてきた。
もし、話し合いが上手くいっていないグループに介入するのであれば、式表象と結び付けられるよう「式で表すとどうなるの?」と介入する、「同じ」「消去」「カウント」を結び付けて発話できるよう「実際に全部書き出してみたら?」と介入するなど、多様な視点から吟味できるような自律的な学習活動を促す介入であれば有効かもしれない。
今後は、授業者の介入に視点をあて、答えを同定してしまうような介入がなかった場合や、方略について価値づけをしなかった場合、もしくは介入する場合でも異なる表象の結び付けを促す程度にする場合、1人ひとり異なる表象を出し合って解き方について議論することが、正解にいたらなくても、その時点だけの理解だけでなく長期的な学習理解につながるのかさらに検証していく必要がある。
どの程度学習者自身に解き方についての議論を保証しておけば、その後授業者の抽象度の高い説明を受けた時に納得する形で理解し、長期保持されるのかについても検証していく必要があるだろう。
自分の考え
波多野(2002)によって、知識獲得過程の特徴が以下の4点に整理されている。
①知識とは基本的に個々人によって能動的に構成していく
②知識獲得は各自の先行知識の制約の上に構成される
③人の理解活動は社会的対人的な文脈に依存した形で行われる
④人は一度獲得した知識をさらに深めたり修正したりするような再構築活動は自然に起こりにくい
以上の4点の特徴を踏まえると、教師の役割は単に、教科書の内容を分かりやすく説明することではないことは明らかである。
人(子ども)が学ぶ(知識を構築する)プロセスに沿った働きかけが重要になってくる。
子ども中心の学びとは、子どもが活動的であるという形式的なものではなく、子どもの学ぶプロセスを中心とし教師がそれを支援するということを徹底することだと考える。
論文情報
【タイトル】知識構築プロセスを安定して引き起こす協調学習実践の検証
【著者】遠藤育男、益川弘如、大島純、大島律子
【雑誌名】『日本教育工学会論文誌』, 第38号 , pp.363-375
【出版年】2015年
【こんなときにオススメ】認知心理学の知見を生かした授業づくりについて知りたいとき
【タグ】学習科学、効果検証
参考文献
遠藤育男、益川弘如、大島純、大島律子(2015):知識構築プロセスを安定して引き起こす協調学習実践の検証 , 『日本教育工学会論文誌』, 第38号 , pp.363-375
コメント