#2 小学校社会科における「概念カテゴリー化学習」の授業構成ー概念の名辞とカテゴリー化の手法に着目してー

教授学習観

小学校段階の児童における概念探究学習の困難さに注目し、それを改善し得る方法として「概念カテゴリー化学習」を提案した新谷和幸氏の論文を紹介。

この論文を紹介する理由

「概念探究学習」を小学校で行うためにどのような手立てが必要なのか考える上で参考になるからである。

子どもの社会の見方・考え方を育成する上で、「概念探究学習」が重要であることは、以下の文献で示されている。

  • 森分孝治 (1978) 『社会科授業構成の理論と方法』明治図書
  • 渡部竜也 (2020) 『社会科授業づくりの理論と方法 本質的な問いを生かした科学的探求学習』明治図書

一方で、「概念探究学習」は、教師が設定した概念的知識を、子どもが探究していく授業であり、児童の発達段階を考慮すると困難さがあるのではないかという指摘がなされている。

学問の科学的な論理に従って、教えていくという視点と、子どもの発達段階を考慮して教育内容を構成していくという視点のバランスがとれた授業をするためには何が必要なのか?

本研究は、そのような疑問の解決につながると考え、紹介する。

この論文を読むことで分かること

  • 概念カテゴリー化学習の必要性
  • 概念カテゴリー化学習の具体的な授業構成方法

論文の要約

研究の背景

小学校において「概念探究学習」を行うことの難しさとして2つの理由がある。

小学校社会科と中等社会科の目標達成の手立ての違い

小学校社会科

児童の発達段階に従って経験可能な範囲で人々の生活や関わりを具体とすることで、社会を概略的にとらえながら、徐々にその範囲を拡大しつつ、児童の社会認識形成を図る

中等社会科

各専門領域の研究成果を背景として、科学的な論理に従って、生徒の社会認識を図る

科学的思考を行うことの難しさ

「概念探究学習」を行う上で、帰納や演繹という科学的思考を自覚し随意的に働かせることができなければならない。小学校段階、いわゆる具体的操作期の児童にとっては、そのような思考は難しい。

このような背景を踏まえると、次のような課題が導かれる。

  • 児童の実態に合った命題とは異なる探究する対象を検討すること
  • 帰納・演繹という科学的思考とは異なる思考方法を検討すること

研究の目的

  • 「概念探究学習」を①概念の命題に着目した探究学習と、②概念の名辞に着目した探究学習に区別し、小学校段階の概念探究学習として「共同体」や「安全」といった概念の名辞を探究する学習の必要性を主張すること
  • 概念の名辞を探究する学習の具体的な授業構成方法について論じること

研究の方法

  1. 概念の名辞を学習する意義についての検討
  2. 概念カテゴリー化学習の学習方法論についての検討
  3. 概念カテゴリー化学習に基づく授業の開発

研究の有効性

「概念カテゴリー化学習」が有効であることの理由

  • 児童が概念の命題を習得することは困難であるため
  • 中等教育における命題探究学習につなげていくために、まずは小学校段階で、具体的な常識的概念も含め、社会科の見方につながるカテゴリーを習得することが重要であるため

カテゴリー化という方法の有効性

  • 2領域間の類似性を基に行われるため、児童でも活用可能な思考方法である点
  • カテゴリーの階層性を利用し、段階的に包摂することで、児童が社会的に不可欠な概念を捉えたり、その意味内容である知識を一般化することができる点
  • 反証事例を用い、学習内容を批判的にとらえる場を設定することで、児童の開かれた社会認識形成を保障することができる点

今後の課題

「概念のカテゴリー化」は4つに分類される。

【具体ー具体型】 (例) 果物⇒食物

【具体ー抽象型】 (例) 先生⇒責任

【抽象ー具体型】 (例) 安全⇒食物

【抽象ー抽象型】 (例) 品質⇒価値

本研究は、その中で【具体ー具体型】の授業案の提示に限られていること

自分の考え

学習指導要領の改訂により、以下のように「社会的な見方・考え方」は、「視点や方法」であると定義された。

「社会的な見方・考え方」は、課題を追究したり解決したりする活動において、社会的事象などの意味や意義、特色や相互の関連を考察したり、社会に見られる課題を把握して、その解決に向けて構想したりする際の「視点や方法」である。

文部科学省 (2017) 『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編』東洋館出版社 , p6

また、「社会的な見方や考え方は、小・中・高等学校の各「見方や考え方」を総称する呼称である。」とされている。

つまり、「社会的な見方・考え方」を「視点や方法」であると捉え、小学校から高等学校に至るまで系統的に働かせていくことが求められている。

本研究は、長期的なスパンで子どもの学びを捉え、小学校段階ではどのような学びが必要なのかを検討されている。

社会認識形成において「見方・考え方」を継続的に働かせていくことの大切さに気付くことができた。

今後は、以下の3点について考える必要がある。

  • 「見方・考え方」は心理学的にどのような思考プロセスをたどるのか?
  • どのような「見方・考え方」を働かせて、社会認識を形成していくのか?
  • 「見方・考え方」を働かせることを促進する教師の働きかけは何か?

論文情報

【タイトル】小学校社会科における「概念カテゴリー化学習」の授業構成ー概念の名辞とカテゴリー化の手法に着目してー

【著者名】新谷和幸

【雑誌名】全国社会科教育学会 , 『社会科研究』 , 第80号

【出版年】2014年

【こんなときにオススメ】社会科の授業づくりについて学びたいとき

【タグ】小学校社会科概念探究学習

参考文献

新谷和幸 (2014) 小学校社会科における「概念カテゴリー化学習」の授業構成ー概念の名辞とカテゴリー化の手法に着目してー , 『社会科研究』 , 80 , pp.57-68

小学校社会科における「概念カテゴリー化学習」の授業構成 : 概念の名辞とカテゴリー化の手法に着目して | CiNii Research
本稿の目的は,小学校社会科の概念探究学習として,概念の名辞(カテゴリー)に着目し,科学的概念だけでなく,常識的概念も含め...

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