社会科における「概念」を明らかにする研究と、その「概念」の獲得を目的とした研究について概観し、その成果と課題について検討された青柳尚朗氏の論文を紹介。
この論文を読んだ理由
社会科における「概念」、いわゆる「社会認識」とは何かを整理する上で参考になるからである。
社会科の目標は、一般的に「社会認識を通して市民的資質を育成すること」とされている。
最終的なゴールは、市民的資質の育成ですが、その中核には、「社会認識」が位置付けられており、その「社会認識」を捉えておくことが重要であると考える。
例えば、「社会認識」については、社会科教育学の視点から捉える「社会認識」もあれば、教育心理学の視点から捉える「社会認識」もある。
両者の捉えには、違いがあると考えられる。
「社会認識」を対象としたこれまでの研究を整理する上で、本論文は参考になる。
この論文を読むことで分かること
- 教育心理学における「概念」「社会認識」の定義
- 教育心理学における「概念獲得」に関する研究の成果と課題
- 社会科教育学における「概念」「社会認識」の定義
- 社会科教育学における「概念獲得」に関する研究の成果と課題
論文の要約
研究の背景
概念についての研究は、次の2つに分けられる。
- 発達段階(年齢)によってどのような概念を獲得しているか調査する研究
- 教科内容に位置づけられる概念をいかにして獲得させるか、獲得していくかを明らかにする研究
後者の研究は、算数・数学や理科を対象とした研究が中心であるが、社会科教育で扱う内容を対象とした研究は数少ない。
その理由として、次に2つをあげている。
- 社会科が暗記科目という前提に立つと、「暗記」が対象になり心理学研究として新奇性がない点
- 「社会」という言葉は多義的な要素を持っており、「社会」の定義が曖昧である点
しかし、社会科は暗記するだけの教科ではなく、思考することが必要な教科である。
よって、社会科における「概念」について理解を深めることが求められている。
研究の目的
社会科における「概念」を明らかにする研究と、その「概念」の獲得を目的とした研究について概観し、その成果と課題について検討すること
研究の方法
- 教育心理学における「概念」「社会認識」の定義
- 社会科教育学における「概念」「社会認識」の定義
- 教育心理学における「概念獲得」に関する研究の検討
- 社会科教育学における「概念獲得」に関する研究の検討
研究の有効性
社会科における「概念」を明らかにする研究
- それぞれの「概念」同士、「社会認識」同士は共通部分が多いと考察できたこと
- 「概念」については、著者・論文によって、異なる定義をしているのではないかと指摘したこと
「概念獲得」に関する研究
- 教育心理学において社会科を対象とした研究が少ないこと
- 社会科教育学において概念獲得、概念的理解の深化を目的とした研究が少ないこと
今後の課題
- 実証的な根拠に基づく理論の構築
- 構築された理論の追試による検証
- 学問分野の融合による研究の推進
自分の考え
社会科教育学の研究は、「規範的・原理的研究」「開発的・実践的研究」「実証的・経験的研究」に大別される。
そして、これまでの研究は、カリキュラムや指導法の開発が中心に行われてきた。
例えば、「社会科はどうあるべきか?」を追究する「規範的・原理的研究」や「目標を達成するために教材をどのように構成するか?」を追究する「開発的・実践的研究」がある。
これらの研究の蓄積は、社会科教育学の発展に大きく貢献してきた。
一方で、学校現場に目を移すと、学力格差、多様性等、それぞれの学校独自の文脈が存在する。
これまでに蓄積されてきた理論は、それらの学校の課題の解決に貢献し得るものなのかは不透明な部分が残る。
だからこそ、研究の視点を現場の子どもに移し、子どもの実際の姿を根拠にした研究が求められるのではないかと考える。
そして、そのような研究を推進していく上で、不可欠になってくるのが「教育心理学」の知見であると考える。
「社会科教育学」と「教育心理学」の知見を生かして、両者を融合していくことが重要であると考えている。
論文情報
【タイトル】社会的事象を対象とした概念獲得研究の動向
【著者名】青柳尚朗
【雑誌名】『東京大学大学院教育学研究科紀要』
【出版年】2019年
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参考文献
青柳尚朗 (2019) 社会的事象を対象とした概念獲得研究の動向 ,『東京大学大学院教育学研究科紀要』 , 58 , pp.315-324
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