小学校社会科において、子どもの自主的自立的な価値観形成をめざし、特定の価値に基づく態度形成をめざす、従来多くみられた社会科授業に替わる授業構成原理を明らかにしようとした紙田路子氏の論文を紹介。
この論文を紹介する理由
民主主義社会における市民には、一方的な社会の見方・考え方を受け入れる”社会の順応者”ではなく、自主的自立的に考え判断することができる”社会の形成者”としての能力が必要とされる。
そうした能力の育成を目指す上で、本論文は参考になると考えるからである。
この論文を読むことで分かること
- 自主的自立的な価値観形成をめざした小学校社会科の授業構成原理
- 上記の授業構成原理に基づく社会科授業のあり方
論文の要約
近年、市民的資質の育成を目的として、子どもの自主的自立的な価値観形成をめざす社会科授業が提案されるようになった。
しかしながら、それらの研究は中等教育に関して論じられたものがほとんどであり、小学校教育現場に十分に反映されていない。
自主的自立的な価値観形成をめざす小学校社会科授業の教育原理を明らかにし、それに基づく授業構成原理を提示した上で、授業に具体化すること
- 自主的自立的な価値観形成を目指す教育原理についての検討
- 小学校社会科における具体的方略についての検討
- 具体的方略の類型化
- 単元「水俣病から考える」の開発
研究の有効性については以下の2点が示されている。
民主的価値の実体化の過程、及び、子どもの価値観形成の過程の考察をもとに、自主的自立的な価値観形成をめざした小学校社会科の授業構成は民主的価値の実体化の比較研究に基づくものであることを明らかにしたこと。
上記の授業構成に基づく「制度・政策・法・社会的判断を時間的に比較・分析する」授業例を示し、具合的な状況に応じた民主的価値の調整を行うことで、主体的に合理的な価値判断を行うことのできる資質を育成できることを明らかにしたこと。
今後の課題については以下の2点が示されている。
より効果的に子どもの自主的自立的な価値観を育成するには、第3学年から6学年の社会科カリキュラムの中にこれらの類型をどのように位置付けるか、より吟味・検討していく必要がある。
実際に教育現場で活用していくには、学校や児童を取り巻く状況にも配慮しなければならない。
自分の考え
民主主義社会を構成する市民を育成するために、本論文で提案されている授業構成は重要であると考える。
自主的自立的な価値観形成は、社会問題を解決するために重要であるからである。
これからの社会を生き抜く子どもたちが直面する社会問題は、より複雑で、よりグローバルなものであり、絶対解は存在しない。
そうした社会問題を解決していくためには、多面的に事象を捉えた上で、自らの価値観に基づいて意思決定する必要がある。
本研究における授業実践は、そうした資質の育成に適うものであると考える。
論文情報
【タイトル】自主的自立的な価値観形成を目指す小学校社会科の授業構成ー第5学年小単元「水俣病から考える」の開発を事例としてー
【著者】紙田路子
【雑誌名】全国社会科教育学会 , 『社会科研究』, 第84号 , pp.13-24
【出版年】2016年
【こんなときにオススメ】価値観形成をめざした授業づくりについて知りたいとき
【タグ】小学校社会科 , 市民的資質
参考文献
紙田路子(2016):自主的自立的な価値観形成を目指す小学校社会科の授業構成ー第5学年小単元「水俣病から考える」の開発を事例としてー , 全国社会科教育学会 , 『社会科研究』, 第84号 , pp.13-24
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