社会科で育成される思考の操作を概念の活用と捉え、新たな事実判断の再構成として他者との関係構築思考を評価する問題の開発とその検証を目的とした豊嶌啓司氏、柴田康弘氏の論文を紹介。
この論文を紹介する理由
社会科におけるパフォーマンス評価を考える上で参考になるため。
この論文を読むことで分かること
- 社会科において育成すべき学力
- 育成すべき学力を評価する方法
論文の要約
概念の活用が必要となる学習として、現行学習指導要領では、市民的資質の育成を直接的な目標とする内容、小学校「法やルール」、中学校「対立と合意、効率と公正」、高等学校公民科「幸福・正義・公正」が示されたが、これらの評価方法はいまだ確立していない。
本小論における問題意識の前提は「概念の形成は、その活用によってのみ習得が確認できる」ことである。概念習得として脱文脈化の成果は、再文脈化の評価を通してしか検証できない。(中略) 多くの意思決定実践は評価への言及・検証が十分とは言い難い。
社会科は社会認識の形成を基盤とする教科であるため、そのパフォーマンスは、特定の社会事象についての理解や、獲得された知識の操作が必要な文脈で、思考を通して出現するものでなかればならない。
社会科で育成される思考の操作を概念の活用と捉え、新たな事実判断の再構成として他者との協働的な認識形成を評価する問題の開発とその効果の検証を行うこと
- パフォーマンス課題の評価枠組みを明らかにする
- 問いの種別や配列による評価問題の構成手順を明らかにする
- 評価枠組みや構成手順による中学校社会科の評価問題の開発・実践の検証
有効性①
社会科の研究実践において、他者との関係構築思考、つまり活用としての思考評価は不十分であることを指摘した。
有効性②
これらの問題を克服すべく、T図式を「脱文脈化に対する再文脈化」、つまり概念的知識の活用として再考し、他者との協働思考ではエビデンス・ハンバーガーを用いた。加えて、「学習者中心のデザイン」(LCD)を統合し、社会科固有の関係構築思考についての評価問題を作成するための、具体的な11個の「足場かけ方略」及び問作スキルを明らかにした。
有効性③
「足場かけ方略」をもとに開発した評価問題を中学校社会科で実施し、その成果を検証した。解答状況から、我々が意図する「足場かけ方略」は、社会科の本質である市民的資質、「概念の活用」/「他者を前提」/「意思決定や問題解決の判断根拠」といった関係構築思考の評価において、生徒が解答しつつ「新たに学ぶ」思考方略(足場かけ)として有効であることを実証的に明らかにした。
課題①
他者との関係構築思考の評価問題事例開発と検証をさらに蓄積し、より実践的に活用可能なものへ修整を重ねる必要がある。
課題②
そのためには、評価問題事例数を増やすため、「足場かけ方略」について、実践研究協力者への理解と連携を広げる必要がある。
課題③
本評価研究は、将来的な社会科授業改善へ繋がることを、より高次の方向目標とする。よって、「足場かけ方略」による評価問題だけでなく、これらを、パフォーマンス課題及びルーブリックの単元や時間への位置づけ、さらに、ワークシートへの活用など具体的な学習指導方法への反映として授業改善に結び付けるための方途を開発する必要がある。
自分の考え
社会科で育成すべき学力として、「社会を認識する力」と「認識した上で判断したり意思決定したりする力」が重要であると考える。
こうした2つの力は対立するものではなく、両者は密接に関連している。
両者を結び付けるものとして、本研究において提起されている「概念」が重要になる。
「概念」とは、抽象度が高く、どのような場面にも転用できる知識と捉える立場もあるが、本研究は少し異なる。
子ども目線で考えると、抽象度の高い概念を獲得したところで、それを活用できるかどうかは分からない。(社会科学と自然科学の違い)
本論文の言葉を借りるならば「概念習得として脱文脈化の成果は、再文脈化の評価を通してしか検証できない」である。
近年の学習理論においても「知識は状況に依存する」と一般的に考えられており、概念の獲得を目指すならば、脱文脈化された知識を、もう一度具体の場面で活用(再文脈化)できるかどうかを問わなければならない。
論文情報
【タイトル】概念活用の思考評価-再文脈化により他者との関係構築思考を評価する中学校社会科の評価問題開発-
【著者】豊嶌啓司、柴田康弘
【雑誌名】全国社会科教育学会 , 『社会科研究』 , 第85号 , pp.1-12
【出版年】2016年
【こんなときにオススメ】評価について知りたいとき
【タグ】中学校社会科、評価
参考文献
豊嶌啓司、柴田康弘(2016):概念活用の思考評価-再文脈化により他者との関係構築思考を評価する中学校社会科の評価問題開発- , 全国社会科教育学会 , 『社会科研究』 , 第85号 , pp.1-12
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