社会的事象の本質を捉える思考の促進を目的に、中学校社会科で実験授業を実施し、その効果を検討した青柳尚朗氏の論文を紹介。
この論文を紹介する理由
社会科教育における実践研究の中で、統計的手法によって授業効果の検証を行っている数少ない研究であるため。
この論文を読むことで分かること
- 普遍的本質に到達している状態
- 普遍的本質の理解を促進する授業実践
論文の要約
研究の背景
抽象的概念であっても異なる文脈においては、当該概念が適用可能であると明示的に示されない限り転移を生じさせることは困難であると指摘されている。
広範な領域固有の知識と、いつそれを使用するかについての理解、およびメタ認知的なモニタリングとコントロールが可能な生徒は新規で曖昧な問題を解くことが可能と指摘している。
社会科教育の分野における授業実践を伴った研究は、その授業効果を検証するにあたり授業後の生徒の記述のみを採用する場合が多い、それらの研究は授業後の記述のみを評価対象としていることから、授業による生徒の変化を検討できていない。
研究の目的
社会的事象の本質を捉える思考を促進する授業デザインとして、学習内容を「具体的事実」、「個別的本質」、「普遍的本質」の3水準に構造化し、それらすべてを同一単元内で学習者が探究する学習プロセスを組織し、その効果を検証すること。
研究の方法
- 実験Ⅰ:生徒の変容を分析するための評価課題と基準の明確化
- 実験Ⅱ:授業の質の向上を目指した各活動の修正が有効であったかの検討
研究の有効性
複数の具体的事実の内容を把握し、それらの共通点を探究することで個別的本質のうちどの性質が近接領域の他事象にも適用可能かを検討することで普遍的本質の理解が促進される可能が示された。
今後の課題
【課題①】
今夏の学習プロセスでは普遍的本質を記述できるようになる生徒が限定的であったこと
【課題②】
実験Ⅰ、実験Ⅱともに都合による二群対比を行うことができてなかった。
自分の考え
この論文から2点の示唆を得た。
1点目は、社会科教育の目標についてである。
これまで一般的に「社会認識を通して市民的資質を育成する」教科であると言われてきた。
ところが、社会認識と市民的資質の関係性が見えにくく、両者が二項対立で語られる時期があった。
本研究のような、子どもの事実(心理)からスタートする実践研究は、二項対立で考えることの無意味さを証明し得るだろう。
市民的資質は、「知識を積み上げていくだけ」、「経験を積み上げていくだけ」では育たない。
子どもの事実(心理)を基盤においた、授業実践を繰り返すことによって、市民的資質を育っていくと考える。
2点目は、社会科教育の研究についてである。
本研究でも言及されていたが、授業効果を検証するためには、授業後の記述のみでは不十分で、生徒がいかに変容したかを評価する必要がある。
本研究において行われている、①目指す学力の定義、②段階的に高めていくアプローチ
論文情報
【タイトル】社会的事象の本質を捉える思考を促進する授業の開発と検証
【著者】青柳尚朗
【雑誌名】『日本教育工学会論文誌』, 第45号 , pp.15-29
【出版年】2021年
【こんなときにオススメ】授業の効果検証について知りたいとき
【タグ】中学校社会科、効果検証
参考文献
青柳尚朗(2021):社会的事象の本質を捉える思考を促進する授業の開発と検証 , 『日本教育工学会論文誌』, 第45号 , pp.15-29
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