「深い理解とはどういうことか」「深い理解を促すためにはどうしたらよいか」について論じられた松本浩司氏の論文を紹介。
この論文を紹介する理由
「深い理解」を達成した子どもの姿について考える上で参考になるからである。
学習指導要領の文中で、「深い学びの実現を目指す」や「~について理解できるようにする」という文言がよく出てくる。
こうした文言を言葉として理解するだけではなく、「深い学びの深さとは?」「理解できるとは?」について具体的な子どもの姿でイメージすることが重要である。
「深い理解」を達成した子どもの姿について言語化していく上で、本論文は参考になると考え、紹介する。
この論文を読むことで分かること
- 「深い理解」の意味
- 「深い理解」を促す教授
論文の要約
研究の背景
- 児童生徒は社会科に対して「概念や事実を記憶し再生できることが理解」と捉えている
- 学習指導要領における「深い理解」の定義が明示されていない
研究の目的
「深い理解」の意味を論じ、社会科教育における「深い理解」を促すために必要な要素を検討すること
研究の方法
- 「深い理解」の意味の整理
- 「深い理解」を促す教授の検討
研究の有効性
具体的には6つの次元があるとされる。
【認知の次元】
認知の次元における理解とは、記憶の増大だけではなく、借り物のままになっている知識に他の知識や経験を用いて意味を付与する過程や、環境との相互作用を通じた、不可逆的な質的変化を伴う認知の再構成でもある。
p.117
【価値の次元】
価値の次元における理解とは、概念に含まれている価値を識別することであり、そのうえで、後述するように、概念に対する自分自身の価値を判断することである。
p.118
【自己の次元】
自己にとっての概念の意義がわかること。
p.118
【行動の次元】
概念を適切に用いて、自分の行動を統制・創造すること
p.118
【身体(感情を含む)の次元】
概念が身体感覚と結合していること
p.119
【社会性の次元】
他者と理解を共有すること、すなわち他者がわかっているようにわかるということ
p.119
自分の考え
これまでは、知識が量的に増えることによって「深い理解」に至るのではないかと思っていた。
しかし、「深い理解」とは多元的であり、それらが関連し合うことで達成されると理解することができた。
社会科の目標は、「グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者の育成」であるとされている。
そのためには、「深い理解」を伴う社会認識の形成が重要である。
教師主導の教科書をなぞるだけの授業では、社会科の目標は達成されない。
子どもが主体的に社会事象に関わり、疑問をもち、他者と関わり、思考することを支援しなければならない。
子どもの深い理解に至る認知的なプロセスに即した授業づくりを行っていきたい。
また、この論文を読んで2つのアイデアを得た。
1つ目は、「目標の個別性」である。
「理解」には、多元性があり、一様に進行していくものではないと論じられている。
つまり、教育目標を一人ひとりに応じて柔軟に設定する必要があるのではないかと思う。
とくに、社会科学における認識は、自然科学における認識に比べて、主観的な要素を多く含む。
もちろん、科学性を無視した主観的な認識の形成にとどまることは避けるべきである。
しかし、認知的なプロセスを考慮すると、一人ひとりが認識を形成していく方法やスピードは異なる。
一人ひとりの実態に応じた教育目標の設定の在り方を考えるべきであると思った。
2つ目は、「メタ認知の重要性」である。
近年、「メタ認知」というキーワードをよく耳にする。
この「メタ認知」は、深い理解に至る上で、重要な役割を果たすのではないかと思う。
概念変化の研究では、「素朴概念」を自覚化することは、概念変化を促すとされている。
つまり、一人ひとりの子どもが自身の「素朴概念」を自覚するためには「メタ認知」を働かせることが重要である。
そのためには、やはり、子どもが学習の中心でなければならない。
1つ目の気付きも2つ目の気付きによって、「学習者中心」の学びが重要であることを再確認することができた。
論文情報
【タイトル】社会科・社会科学教育における<深い理解>を促す教授ー理解の多元・重奏性をふまえてー
【著者】松本浩司
【雑誌名】『名古屋学院大学論集 社会科学篇』
【出版年】2018年
【こんなときにオススメ】用語の定義について知りたいとき
参考文献
松本浩司 (2018) 社会科・社会科学教育における<深い理解>を促す教授ー理解の多元・重奏性をふまえてー , 『名古屋学院大学論集 社会科学篇』, 54 , pp.115-133
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